ぽっけのなかのきょうと、来年の花

お話

むかし、ある家の庭に、赤い花が一輪だけ残っていました。

まわりの花はもう種になって、頭を垂れていました。

子ははさみを持って、終わった茎だけを切り、赤い一輪は残しました。「まだ見てる途中だから」と思ったのです。

そのとき空が割れました。

大きな白い鳥が、電線の下を通って飛びました。羽は金属で、声は雷でした。

庭の土が小さく震え、ノスリが電柱の先で片目を開けました。ノスリは言いました。

「あれは通るだけの鳥だ。住む鳥ではない。」

子は空を見て、うなずきました。通る鳥は撮ればいい。住む鳥は、夜になったら静かにする。

夕方、切った種を掌に乗せていると、赤い花が小さく揺れました。

花は話しません。

代わりに、種が転がって指の間に入り、「来年の場所を覚えている」とだけ伝えました。

子が種を土の近くに置くと、ノスリが翼を一度だけたたいて、電柱の影を家の屋根から外しました。

見張りを降りる合図です。

大きな白い鳥は、もう遠くの海の上にいます。

アメンボの小川も、シダの山も、栗ご飯も、全部今日のポケットに入りました。

ポケットは布団の中でもこぼれません。

こぼれないように、ママが端をつまんでいます。

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